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<開催期間終了>美人画だけじゃない―生涯旅を続けた男の軌跡「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」がSOMPO美術館で開催中

現在、東京・新宿にあるSOMPO美術館で、日本博参画プロジェクトに認証されているイベント「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」が開催中です。
【会期:2020年11月11日 (水) ~ 2021年1月24日 (日) 】

曲線でデフォルメされた肢体、伏し目がちで夢見るような表情――ロマンティックかつモダンな美人画で人気を博した、昭和を代表する洋画家・東郷青児。
本の表紙に化粧品のパッケージ、洋菓子店の包装紙にマッチ箱など、昭和風景のいたるところに溶け込んだ“青児美人”たち。名前が分からずとも絵を見れば「ああ、あの絵の人ね」とうなずく方も多いはずです。

そんな東郷は、実は生粋の海外トラベラーでもありました。本展は、美人画だけではない東郷作品の魅力を、彼がたどった旅の軌跡を軸に追っていく展覧会となっています。

この記事では、「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」の展示内容や見どころをご紹介します。

展示風景

※本記事に掲載している展示作品の写真は、美術館の許可をいただいて撮影しています。

約240点にも及ぶ東郷作品を収蔵――今年新設されたばかりのSOMPO美術館

SOMPO美術館のロゴマークは東郷の作品《超現実派の散歩》がモチーフ。

その前に、東郷青児と切っても切れない関係にある、開館したばかりのSOMPO美術館についてご紹介します。ご解説いただいたのは、損保ジャパンの冨樫さんとSOMPO美術財団の村田さんです。

(左)冨樫さん (右)村田さん

1976年、安田火災海上保険(現・損保ジャパン)は、本社ビル42階に「東郷青児美術館」を開館。東郷から提供を受けた自作約160点と国内外の蒐集品を展示し、日本初の高層階美術館として人々に親しまれます。

その後も、安田火災の創業100周年を記念した事業の一環で購入した、フィンセント・ファン・ゴッホの代表作《ひまわり》を収蔵するなどコレクションを増やし、2020年7月には同ビルの敷地に新設された美術館棟に移転。新宿から文化・芸術を世界に発信するアートランドマーク「SOMPO美術館」として新たなスタートを切りました。

美術館正面。カーブで構成されたユニークな外観。

地下1階、地上6階建ての美術館棟。建築コンセプトは、“アートを想起させる彫刻”とのこと。

冨樫さんは「溶接の跡をあえて残すなど、建物自体が一つの作品になるように設計されています。そして、建築の最大の特徴は、東郷作品からインスピレーションを得たやわらかな曲面をモチーフにしている点です」と話します。数百点にのぼる東郷作品を納める美術館として、これ以上ふさわしい場所はないかもしれません。

よく見ると外観だけでなく、2階の休憩スペースの大きな窓や天井など、内部のさまざまな箇所もカーブを描いていて、開放的でありながら空間をやさしく包み込んでいるような印象を受けます。

3~5階の展示室で作品を鑑賞して2階に降りてきたとき、「ほっと一息ついて余韻に浸れるような、やすらぎの空間になるように」という設計思想があったとのこと。椅子の設計は日本を代表するデザイナー・深澤直人氏によるもので、村田さんいわく「座ると人生がかわる」ほど座り心地抜群の逸品。まさにお話を伺っている最中も、大いにリラックスできました。

2階休憩スペース
エントランス前にある陶板複製画の《ひまわり》

また、エントランスの前には同館が収蔵するゴッホの《ひまわり》の原寸大陶板複製画が飾ってありますが、これは絵の具の厚みまで元の絵を再現してあるという、触れる《ひまわり》。

「花瓶に活けたゴッホの《ひまわり》は全7作あるのですが、当館が収蔵しているのは5番目に描かれた最も筆致が荒い《ひまわり》。その凸凹を再現していますから、触ればどんな絵なのかイメージできます」とお二人は話します。視覚障害のある人も《ひまわり》を楽しめるように、という思いがあったそう。

「この街には、《ひまわり》がある。」というブランドメッセージのとおり、東郷作品のエッセンスを多分に含んだ美術館であると同時に、アジアで唯一《ひまわり》に出会える美術館でもあるSOMPO美術館。今回の展覧会に行く際には、展示室内の作品だけではなく、こういった建物や陶板複製画にも興味をもっておくと一層楽しめそうですね。

「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」の展示内容と見どころ

展示風景

それでは「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」の展示内容を見ていきましょう。

1階エントランスからエレベーターで5階へ。展示を見ながら5→4→3階と降りていく順路になります。

24歳からフランスに7年間留学したことに始まり、晩年は何かに突き動かされるように世界各地を旅した東郷青児(1897-1978)。生涯にわたって海外へ強い関心を抱いていた彼の活動の軌跡を、油彩や素描といった彼の作品だけでなく、蒐集した作品、彼が旅先で手に入れたお土産まで、約140点の収蔵品をもとに辿っていきます。

アトリエ再現ブース

5階展示フロアの入り口すぐ横には、東郷のアトリエを再現したブースがあります。置いてあるものはすべて東郷の私物とのこと。ステッカーがたくさん貼られた旅行カバンに外国の地図。これから出発する東郷の足跡という「旅」になぞらえるかのようで、ワクワクとした気持ちにさせられます。

展示フロア内には、実際に東郷が足を伸ばした国の一覧と年表が掲載されています。見ればその渡航先の数と、晩年のフットワークの軽さにきっと驚くはず。

亡くなった年(1978年)にはアマゾン奥地に足を運んだという記述も。御年80、驚くべきバイタリティです。
東郷か保管していたさまざまな国のパンフレットや、旅先で得たお土産といった品々も「旅」の要素として展示。

展示構成は、

第1章 1920年代のフランス (1921~28)
第2章 モダンボーイの帰国 (1928~35)
第3章 イメージの中の西洋 (1935~59)
第4章 戦後のフランス (1960~78)
(1) リアルなフランス体験
(2) 二科の交換展と受章
第5章 異国の旅と蒐集品 (1960~78)
第6章 当館の設立と新たなる旅 (1976~78)

となっていて、ほぼ年代順に作品を見ていくことができます。各章ごとに、その時期の東郷が何をしていたか、何に関心を持っていたかが解説されているため、東郷作品に詳しくない方でもスッと彼の世界観に浸れることでしょう。

《赤いベルト》油彩・キャンヴァス 1953年
©Sompo Museum of Art, 20017
《望郷》油彩・キャンヴァス 1959年
©Sompo Museum of Art, 20017

東郷の代表作といえる《赤いベルト》や《望郷》といった人気の美人画ももちろん見ることができますが、本展では、それらはあくまで構成要素のひとつ。

ここからは、あまり表に出てこない“青児美人”以外の東郷作品の見どころを、筆者の視点でピックアップして紹介していきます。

見どころ① “青児美人”が完成する以前の模索期

18歳で描いた《コントラバスを弾く》油彩・キャンヴァス 1915年 と、若かりしころの“モダンボーイ”東郷の写真
《スペインの女優》油彩・キャンヴァス 1922年
©Sompo Museum of Art, 20017
《南仏風景》油彩・キャンヴァス1922年
©Sompo Museum of Art, 20017

当然ですが、東郷の唯一無二の画風も初めから完成していたわけではありません。美人画にいわゆる“青児美人”らしさが本格的に出てくるのは、40代ごろのことです。

美術学校には通わず、独学で絵画を学んでいたという東郷。フランス留学中(1921~28年、24~31歳ごろ)は、イタリア・ドイツ・イギリス・スペイン・スイスなどへも旅して芸術に触れ、ピカソら若い画家たちと交流しつつ伝統的な西洋絵画の基礎を習得していったそうです。

10~20代のころの絵はどこかノスタルジック。まだ自分が何を・どのように描くべきか定まっていないような印象を受けますが、その模索の中でも個性が磨かれていく様が見て取れます。

見どころ② 貧困の中にあった戦後フランスの現実

《貧しき子》油彩・キャンヴァス 1963年
©Sompo Museum of Art, 20017
《子供》油彩・キャンヴァス 1960年
©Sompo Museum of Art, 20017
(左)《母と子a》コンテ・水彩・紙 1962年 /(右)《母と子b》コンテ・水彩・紙 1962年
©Sompo Museum of Art, 20017

60歳を過ぎ、ふたたびフランスの地を踏んだ東郷は、そこで戦後の貧困にあえぐ人々の姿を目の当たりにします。よほど強いショックを受けたのか、画家としての使命感を抱いたのか。やつれた母子を描いた作品を多く残したそうで、本展でもその一部を鑑賞することができます。

幻想的な美人画でしか東郷を知らない方は、これらのあまりに切実で、現実と地続きの作品を見て驚くかもしれません。デフォルメされていながら、まるでその場の空気やにおいまでも絵に閉じ込めたかのような生々しさがありました。

見どころ③ 眼差しが印象的な異国の女性たち

《ヴァンスの女》コンテ・水彩・紙 1972年
©Sompo Museum of Art, 20017
《サハラ・タマンラセット》コンテ・水彩・紙 1974年
©Sompo Museum of Art, 20017
《チェッコの女》鉛筆・水彩・紙 1970年
©Sompo Museum of Art, 20017

よく知られた油彩の“青児美人”の多くは、伏し目がちだったり目が陰っていたり、または瞳が輝くように白くなっていたり……。そこがミステリアスで魅力的なのですが、打って変わって、吸い込まれるように力強い眼差しをもつ女性たちの絵も東郷は残しています。後年の東郷は、それまでの神秘的な美人画のスタイルを少しずつ崩しながら、より現実に根付いた人々の生命や感情の表現に取り組んでいったそう。

きらりと輝く眼光で見る者の心を射抜いていく。現代の美少女漫画にいても違和感がないような、“青児美人”とはまた違った凛とした表情に、時間を忘れて見入ってしまいます。

見どころ④ 貴重な男性画に巨大な彫刻――尽きぬ創作意欲

《タッシリの男》コンテ・水彩・紙 1972年
©Sompo Museum of Art, 20017
《古城》油彩・キャンヴァス 1970年
©Sompo Museum of Art, 20017
《日蝕》ブロンズ 1976年
©Sompo Museum of Art, 20017

東郷は、あふれる好奇心と創作意欲の塊だったといっても過言ではないのかもしれません。

毎年のように海外へ飛び立ち続けたという晩年に制作された作品からは、芸術方面でも安定を求めなかった旺然たる姿勢が伝わってきます。

特に気に入っていたという国・アルジェリアでは、サハラ砂漠でテント生活(!)も経験したそう。そこで出会ったトゥアレグ族の男性を描いたという肖像画《タッシリの男》ですが、「東郷も男性の絵を描いていたんだ」とまずその珍しさに驚くのではないでしょうか。

上で紹介した異国の女性たちに勝るとも劣らぬ生の美しさ。生涯のモチーフが「女性」だった東郷ですが、ひとたび筆をとれば、ハッとするほど魅力的な男性画もこのとおりです。

一方で、こちらも貴重な風景画である《古城》は、“青児美人”に見られるような緻密さ・滑らかさは一切なく、荒々しい筆づかいが絵に緊張感をもたせています。

このように、「東郷っぽくなさ」を覚える作品が晩年に集中。意外性に満ちていて心が躍ります。

極めつけは彫刻作品《日蝕》。もともと“青児美人”自体に立体感のある表現が使われていましたので、東郷が立体物に挑戦すること自体に驚きはありませんが、この1メートルを優に超す大作に取り掛かったのが70歳を過ぎてからというから脱帽です。

何かを探し続けるかのように、死ぬまで海外へ興味と憧れをもち続けた東郷。求めたものが何だったのか、思いを馳せずにはいられません。

記念撮影もOK!最後に待っているのはゴッホの《ひまわり》

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》油彩・キャンヴァス 1888年
(左)ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》油彩・キャンヴァス 1888年 (右)ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》油彩・キャンヴァス 1879-1880年

さて、ここまで東郷青児の作品をピックアップして紹介しましたが、最後に収蔵品コーナーとして、ゴッホの《ひまわり》やグランマ・モーゼス《丘の道》など、SOMPO美術館が収蔵する著名な海外作家の絵画が展示されていました。

《ひまわり》に関しては、美術館の移転前と比べて、より間近で鑑賞できるようになったそう。保護ガラスは特注のドイツ製。まるでそこに存在しないかのような透明度で、作品のもつ空気をしっかりと感じられる工夫がされています。

ここまで近づけます!

なんとこの《ひまわり》は、うれしいことに一般の方も自由に写真撮影可能です(フラッシュはNG)。落札価格・約53億円の大作がほんの目と鼻の先に……。ぜひ忘れずに記念写真を撮っておきましょう。

フォトスポット

ちなみに写真撮影といえば、1階エントランスには《ひまわり》をモチーフにしたフォトスポットもありました。この衝立の左サイドは、SOMPO美術館をゴッホタッチで描いた遊び心のあるグラフィックとなっていました。(画家・古賀陽子氏の作)

展覧会ポスター

「大衆のための芸術」をモットーにしていた東郷青児の展覧会とあって、深い知識がなくても十分楽しめました。かつて少しでも「東郷の絵が好き」という気持ちを抱いたことのある人なら、きっと満足できるはず。

「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」の開催は2021年1月24日 (日)まで。完全事前予約制のため、訪館の際はご注意ください。

会期 2020月11日11日 (水)~ 2021年1月24日 (日)
会場 SOMPO美術館
開館時間 10:00 – 18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日 月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館)
年末年始 [12月28日(月)~1月4日(月)]
観覧料金 一般:1,000円
大学生:700円
小中高校生:無料
障がい者手帳をお持ちの方は無料
注意事項 日時指定入場制です。事前に日時指定のオンラインチケットをご購入ください。(https://www.e-tix.jp/sompo-museum/
公式サイト https://www.sompo-museum.org/