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<開催期間終了>達人技の競演を楽しむ「人間国宝 松井康成と原清展」 茨城県陶芸美術館で開催中

2020年10月31日~2021年3月21日の期間、茨城県笠間市にある茨城県陶芸美術館では、日本博参画プロジェクトとbeyond2020プログラムに認証されている企画展「人間国宝 松井康成と原清展」を開催中です。

重要無形文化財「練上手(ねりあげで)」保持者であった故・松井康成(まつい こうせい)氏と、「鉄釉陶器(てつゆうとうき)」保持者の原清(はら きよし)氏。

いわゆる人間国宝である2名の陶芸家の作品を、各55点ずつ、計110点を集めた本展。卓越した技の粋を集めた珠玉の作品群を堪能しながら、それぞれの表現の深まりやひろがりを追っていく内容になっています。

本記事では、「人間国宝 松井康成と原清展」の展示作品や見どころについて紹介します。

茨城県陶芸美術館

笠間焼の産地として長い歴史を有する茨城県笠間市に、2000年に開館しました。「伝統工芸と新しい造形美術」をテーマとする笠間芸術の森公園の中にある、東日本初・陶芸専門の県立美術館です。

陶芸のすばらしさを多くの人に知ってもらうため、近代陶芸をリードした巨匠・板谷波山をはじめ、日本の近現代陶芸家の優れた作品を紹介。国内外の陶芸作品を集めた企画展もたびたび開催されています。

 

茨城県陶芸美術館 正面入り口
企画展ポスター

松井康成と原清はどんな陶芸家?

松井康成《練上嘯裂茜手壺》1982年 茨城県陶芸美術館蔵 /「練上」の技法で作られた松井氏の代表作。

松井康成(1927-2003)氏は、笠間市にある月崇寺というお寺の住職として働きながら陶芸の道を歩んだという、一風変わった経歴をもっています。

日本や中国の古陶磁を研究するなかで、色の異なる土を組み合わせて模様を作る技法「練上(ねりあげ)」と出会い、研究を深める中で「嘯裂(しょうれつ)」「玻璃光(はりこう)」といった独自の作陶テクニックを生み出していきました。

松井康成《練上線文深鉢》1971年 茨城県陶芸美術館蔵 /このような細い模様もすべて色の異なる土で表現。絵付けされた器と違い、作品の内側にも表側と同じ模様が見えるのが「練上」の特徴です。
来場者に配布されるガイドブックより引用。

古くからある「練上」は、性質の異なる複数の土を使う関係上、壊れやすくあまり大きな作品が作れないという問題を抱えていました。そこで松井氏は呈色剤(ていしょくざい/土に色をつける顔料)を活用して、同じ土で複数の色をそろえる“同根異色”の方法でその課題を解決します。

また、一般的なろくろ回しでは「練上」の模様が崩れてしまうため、円筒を用いて土の形を整え、土を内側から押し出すように膨らませる成形方法も考案。(上の画像参照)

このように松井氏は「練上」の表現を飛躍的に発展させ、1993年には重要無形文化財「練上手」の保持者に認定されました。

「鉄釉陶器」の作品

一方の原清(1936 – )氏は、釉薬(ゆうやく)の配合の研究に取り組みながら作風を広げている現役の陶芸家です。

釉薬は、器のコーティングの役割を果たします。器に塗って焼成するとガラス質に変化して、色や光沢を出すほか、汚れや水分をしみ込みにくくさせる効果もあります。

原材料は粘土・長石・植物の灰・鉄など種類によって異なりますが、材料の配合バランスや窯の温度・焼成時間を微調整することで多様な色彩を発色させることが可能です。

青みがかった釉調の「鈞窯(きんよう)」や、翡翠のような色合いになる「翠釉(みどりゆう)」など幅広く手掛けている原氏ですが、中でも好んでいるのは、酸化鉄を含ませた釉薬を用いた「鉄釉陶器」という技法。

原清《鉄釉馬文大壺》(部分) 2005年 茨城県陶芸美術館蔵 / 初めに黒になる釉薬を塗り、その上からシルエット部分をゴム液でマスキング。褐色になる釉薬を重ね、ゴム液をはがして焼き上げる「抜き絵」の技法が使われています。

黒と褐色の2色で巧みに描き出される自然のモチーフ、土の力強さやおおらかさを感じさせるフォームが魅力で、2005年には「鉄釉陶器」で重要無形文化財の保持者に認定されています。

「人間国宝 松井康成と原清展」開催への思い

岩井さん

同館の主任学芸主事・岩井さんにお話をうかがうと、本展を企画した背景には、人間国宝の技のすばらしさを際立たせて紹介したいという思いがあったそう。

「比較対象があってはじめて『なるほど』と気づけることってありますよね。作風の違う人間国宝の方々の作品を比べながらご鑑賞いただくことで、それぞれの突出したポイントも引き立って見えてくるのではと考えました」と岩井さんは話します。

実はこの二人、同時代に日本工芸会をけん引していった大家同士というだけでなく、一緒に旅行するなど交遊もあったそう。さらに、「練上」や「鈞窯」といった中国古陶磁に魅了され、名品を手本に古い技法から研究。土台を築いていったという共通のルーツも。

「根底にあるものが同じであれば、作風が離れていても、どこかに共鳴するものや親和性が見えてくるのではないか。そういった鑑賞体験への期待も、同時に作品を展示しようと考えた理由です」

「なんとなく」で終わらせない展示構成、子供や初心者が楽しめる工夫も

展示風景

展示作品は初期から後期まで、大型の壺から小型の茶碗までと幅広く集められていますが、それぞれ、

1.二人の人間国宝の「わざ」
2.松井康成の“深まり”
3.原清の“ひろがり”
4.二人の愛した自然
5.生活の中の美

という五つのテーマに分類されています。

松井作品エリア・原作品エリアといった単純な区分ではなく、意図的に双方の作品を対面させたり交互に並べてみたりと、配置にもこだわりが見受けられるのがポイント。各作品がもつ力が混然一体となり迫力が出ていましたし、どちらの作家の作品にも共通する温かみのようなものがあることに気づかされました。

岩井さんのおっしゃるように、初心者であっても見比べることで、ぼんやり「なんとなく雰囲気を楽しんだ」で終わらせない、焦点を合わせた鑑賞ができるように配慮されていました。

対面する二人の作品群。一つ一つの作品にパワーがあるため、空間によい緊張感やメリハリが生まれ、まさに“競演”といった趣き。

作家の力量に差がありすぎれば、引き立てるほうと立てられるほうの関係で終わってしまうはず。本展の展示方法は、どちらもが陶芸の道を極めた実力者だからこそ実現できたことなのでしょう。

(左) 原清《鉄釉樹木文大壺》c.2005年 茨城県陶芸美術館蔵 / (右) 松井康成《萃瓷練上壺「異境」》1995年 茨城県陶芸美術館当館蔵 /「二人の愛した自然」のコーナー。リアルな自然をそのまま落とし込んだような樹木と、夢の中に出てくるような幻想的な花とで美意識が対比されています。

つい最近まで教職に就いていたという岩井さんが、その経験を生かして、子供や初心者にも楽しめるような工夫を各所に凝らしているのにも注目です。

来場者に配られる8ページのガイドブックでは、先ほど画像で紹介した「練上」技法の解説をはじめ、松井氏と原氏の技を理解するのに最低限の知識がイラストでわかりやすく紹介されていました。(イラストも岩井さんご自身が制作されたそう!)

しっかり技法を理解すれば見えてくる世界も違ってきます。この取り組みで、来館した子供たちからの反応も上々とのこと。

特定の曜日には学芸員や展示解説員によるギャラリートークも開催されているので、作品について深く知りたいという方には非常におすすめです。(人数限定)

会場内にも解説ボードを設置。かしこまりすぎないデザインで肩の力が抜けます。

「人間国宝 松井康成と原清展」の見どころをピックアップ紹介

それでは全110点の出展作品の中から、本展の見どころを注目作品とあわせてピックアップして紹介していきます。

見どころ① 圧巻の超絶テクニック (松井康成)

松井康成《練上嘯裂文大壺》1978年 茨城県陶芸美術館蔵
松井康成《晴白練上陶筥》1989年 茨城県陶芸美術館蔵 / 「晴白」はニュージーランドでとれるカオリンの焼粉を素地に混ぜ、くすみのない白を出したもの。パステル調の色彩が特徴。
松井康成《練上玻璃光大壺「雪凌華」》1998年 茨城県陶芸美術館蔵
松井康成《練上玻璃光大壺「西施」》1998年 茨城県陶芸美術館蔵

松井氏は「練上」を極める中で、表面にあえて傷をつけ、裂け目を模様として生かす「嘯裂(しょうれつ)」「象裂(しょうれつ)」、表面をダイヤモンドの粉末で研磨して輝かせる「玻璃光(はりこう)」といったさまざまな技法を編み出していきました。

会場では技法についても年代順に紹介されているのですが、作り方を理解しても思わず「これ、どうやって作ったの……?」と声を漏らしてしまうような、達人技としかいいようのない仕上がりの作品が目白押しでした。

たとえば《練上嘯裂文大壺》は、縦にも横にも無数のヒビが入った地層を彷彿とさせる大型の作品で、大地の力強さと触れたら崩れてしまいそうな繊細さが同居。「嘯裂」「象裂」の技法が使われた器の中には、亀裂を細かく入れすぎるあまり、表面がファーのように毛羽立っていると錯覚するような作品もあり、手でさわれないのがおしいほどでした。

松井氏の作品はカラフルなものが多く、極彩色のもの、パステルタッチのものまで幅広いですが、《練上玻璃光大壺「西施」》や《練上玻璃光大壺「雪凌華」》など後期作品のデザインの緻密さには脱帽の一言。どれほどの手間をかけたのか……土で描いたとは到底信じられない細やかな手仕事ぶりに惹き込まれます。

見どころ② 「珠」という美意識 (松井康成)

大小さまざまな「珠」
松井康成《練上嘯裂茜手大壺「深山紅」》1981年 茨城県陶芸美術館蔵

松井氏の作風で目を引くのは“珠(たま)”の存在。岩井さんによると、松井氏は「“珠”は宇宙が目指す唯一のかたち」「宇宙にあるすべてのものは“珠”になる」という独自の哲学をもっていたそう。

本展にも、手のひらサイズから一抱えもあるサイズまでさまざまな“珠”が登場しており、見ごたえがあります。まん丸ではなく少し押しつぶされたような楕円形のフォルムは、まるで私たちの生きる地球のよう。その視点で見れば、グラデーションがかった神秘的な縞模様も惑星を連想させ、松井氏の世界観の一端を垣間見たような心地に。

“珠”系の作品は、タイトルにはいずれも「壺」とついていますが、壺口の大きさが非常に小さく、出っ張りもないのが特徴的。実用性をそぎ落とし極限まで造形美を追求している、松井氏の美意識の到達点といっても過言ではないかもしれません。

見どころ③ 馬やカニ、器の中で遊ぶ動物たち (原清)

原清《鉄釉馬文大壺》1988年 茨城県陶芸美術館蔵
原清《鉄釉馬文大鉢》2015年 茨城県陶芸美術館蔵
原清《鉄釉蟹文大鉢》1987年 茨城県陶芸美術館蔵
原清《鉄釉方形鳥文壺》2010年 茨城県陶芸美術館蔵

原氏の「鉄釉陶器」には、風にそよぐ草花など身近な自然の風景を切りとったモチーフが登場します。中でも傑出しているのは、馬や小鳥、蟹や魚といった身近な動物たちの存在感。

《鉄釉馬文大鉢》の馬には躍動感があり、器の中でのびのびと動き回っているかのよう。《鉄釉蟹文大鉢》の向かい合った2匹の蟹は遊んでいるのか、それともケンカしているのか想像がふくらみます。2色のコントラストだけで表現されているとは思えない豊かな表情が、原作品の持ち味といえるでしょう。

鉄釉を重ね掛けしているからこそ、シルエットの境界が溶けてぼんやりと曖昧になり、ゆらめくように柔らかい印象に。特別なことはなく、“ただありのままそこにいる”動物たちを眺めていると、心があたたかく解けていくようで、作品のもつ懐の深さに癒されました。

よくよく観察すると、釉薬の厚みや褐色の出方はすべて微妙に異なっています。パキッとオレンジに近いもの、下の黒が透けてベージュに見えるもの……。その色に目を向けるたび、濡れたような黒の美しさをことさら意識させられます。

見どころ④ 唯一無二の青と翠 (原清)

原清《鈞窯八角鉢》1972-1973年 茨城県陶芸美術館蔵 / 原氏の「鈞窯」の代表作。側面は鉄分の影響で赤紫色になっており、宝石のように美しいので必見です。
(左右とも)原清《翠磁刻文香炉》1993年 茨城県陶芸美術館蔵
原清《淡翠釉仔犬と鳥浮文様壺》1998年 個人蔵

釉薬で望んだとおりの色を出すのは一朝一夕にできることではありません。焼成時間や触れさせる酸素の量を少しでも間違うと、変色したり溶けて模様がなくなってしまったりするため、慎重な作業が求められます。

中でも発色が難しいとされているのは、青磁の一種であり、北宋時代の中国でのみつくられていたという「鈞窯」の鮮やかで上品な青。原氏は長年の研究で、今では“原の鈞窯”と名前付きで呼ばれるほど独自性のある「鈞窯」を生み出すことに成功しました。

《鈞窯八角鉢》の晴れ渡る春の空を思わせる青は、いつまで眺めていても飽きることはありません。

また、原氏が開発した、翡翠に似た発色をする「翠釉・翠磁(すいじ)」の作品も見逃せません。清涼感のある《翠磁刻文香炉》は、真っ白な磁器を淡いグリーンで彩った作品で、彫りの厚みで釉薬のたまり方を変えることにより濃淡を表現しています。オリエンタルでありながら西洋風なニュアンスも含んだ佇まいで、つまみにつけられた鳥やゾウの遊び心が光ります。


作陶の技の奥深さに感嘆する展覧会、「人間国宝 松井康成と原清展」の開催は2021年3月21日(日)まで。

新型コロナウイルスの感染状況により、開館時間や休館日が変更される可能性がありますので、観覧を予定されている方は公式サイトで最新の情報をチェックしてください。

 

会期 2020年10月31日(土)~2021年3月21日(日)
会場 茨城県陶芸美術館 地階企画展示室
開館時間 午前9時30分〜午後5時 (入場は午後4時30分まで)
休館日 毎週月曜日 ※茨城県独自の緊急事態宣言により、1月18日(月)~2月7日(日)まで臨時休館
観覧料 一般520円/満70歳以上260円/高大生520円/小中生210円

※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳または指定難病特定医療費受給者証をお持ちの方、および付き添いの方(ただし1人につき1人まで)は無料。土曜日は高校生以下無料。(ただし、長期休業日に当たるときを除く)
※2月27日(土)は70歳以上無料。

主催 茨城県陶芸美術館
公式ページ http://www.tougei.museum.ibk.ed.jp/exhibition/matsui-hara/index.html